2022年8月13日(土)に開催を控えている、東京・日比谷野外大音楽堂でのおとぎ話のワンマンライヴ〈OUR VISION〉。ライヴに先駆けて6月22日にはニューアルバム『US』がリリースされたが、同公演に向けた本連載では、フロントマンの有馬和樹に、『US』の前に発表してきた11枚のアルバムを1作ずつ語ってもらう。

第4弾となる今回は、2010年11月にリリースされた4作目の『HOKORI』について。このアルバムは曽我部恵一の主宰レーベルとして知られるROSE RECORDSからのリリース。バンドによる一発録りを曽我部氏がミックスしたという同作では、おとぎ話のパンク精神やアヴァンギャルドな音楽志向がいかんなく発揮されたサウンドが鳴っている。歪で荒々しくも、その自由さが風通しの良さとして魅力的な『HOKORI』はどんなふうに作られたのだろう。
Interview & Text by 田中亮太

HOKORI

ーー『HOKORI』は前作『FAIRYTALE』と同じ年のリリースになりました。

「『FAIRYTALE』は自信作だっただけに、次に何をするべきか迷うところもあった。だからこそ早く次に行こうとしたんだと思う。あのアルバム自体にまったく非はないんだけど、自分自身の表現を狭めているような感覚もあったし、もっと自由にやることもできるんだよと証明するような気持ちで『HOKORI』のデモを作った。それを当時ROSEのスタッフだった金野(志保)さんに聴いてもらって、そうしたら〈うちで出しませんか?〉と言ってくれた。じゃあ出しちゃおうかなって」

ーーそれまでリリース元だったUK.PROJECTとしてはROSEから出すことは問題なかったんですか?

「ROSEがUKにちゃんと話を通してくれたからリリース自体は大丈夫だったんだけど、やっぱりバンドからも一言伝えておくべきではあって。ただ、有馬は会社の人と話ができない状態になっていたから、風間くんに〈言っといて〉と伝えたんだけど、彼が言わなかったんだよね。言えなかった、というのが正しいとはいえ、やっぱりそれでUKとはぎくしゃくしたし。その結果、大変ではあったよ。バンドとしてはそれまでお世話になったレーベルに不義理をする形になってしまったから」

ーー『FAIRYTALE』についてのインタビューでは、2010年前後のUSインディーの自由で雑多なムードが『FAIRYTALE』以降の有馬くんに刺激を与えていた、と言われていましたよね。

「『HOKORI』では、そのあたりをいちばん意識していたと思う。日本にもそういうバンドがいるんだぜ、おとぎ話はそうなんだぜ、と自覚したうえで取り組んでいたからね。テクニックや音の方向性の面で近いことをやろうとしていたバンドはいたよ。でも、おとぎ話は精神面で一緒というか、そういう同時代性を伝えたかったんだよね」

ーーその精神面とは、どういう言葉で言い表せます?

「やっぱりアメリカ/北米のバンドってフリーキーさがあるなと思っていたんだよね。それが何なのかはすごく考えていたよ。たとえばアーケイド・ファイアとか僕らと同世代なわけでしょう。ゆえに、その人たちは僕らとほぼ同じ音楽を聴いてきたわけで。フレーミング・リップスとかガイデッド・バイ・ヴォイシズとかは絶対に聴いていただろうし、そういう近いルーツを持つなかで、90年代の初期のオルタナ、バットホール・サーファーズなんかに憧れる人もいれば、80年代のハードコアを掘り下げる人もいた。だから、インディーの新譜を聴きながら、アーティストが何を聴いてこのアルバムを作ったのかをひたすら研究していた。それをしながら、あらためて自分はホントに音楽を好きなんだ、と思った」

ーー確かに『HOKORI』は演奏やソングライティングの面で実にフリーキーです。

「わかりやすいものを作ろうと思った『FAIRTYTALE』の真逆で、これはわかる人にだけわかるものを作ろうとしたんだよね。1年に何枚もアルバムを作っちゃう人とかいるじゃん? タイ・セガールとかもいろんな名義で短期間に数えきれないくらいのアルバムを出していたけど、そのなかには何これ?ノイズ?みたいなものもあって。それをやりたかったんだよね」

ーー曽我部さんがまさにそういうアーティストであって。

「そうそう、あの活動の仕方。あとはグランド・ロイヤルのアーティストとかも意識していたな。ジャンク感があるのにひたすらポップというのが重要だった。これは本当にジャンクミュージックだね。でもね不思議と『HOKORI』がいちばん好きという人がいまだにいるんだよ」

ーーどういう人が多い?

「やっぱり世間に中指を立てている人じゃないかな(笑)。こういうアルバムをわかりにくいというのは簡単なんだけど、〈何これ?〉という感じで聴けば聴くほど楽しくなると思うんだよね。ギターの牛尾(健太)はいまだに、これをすっごい好きと言っているね。やっぱりバンド自体が何のプレッシャーも感じることなく解放されていたからじゃないかな。最初、タイトルを『NO PRESSURE』にしようと言っていたくらい」

ーーということはレコーディング自体も楽しかった?

「レコーディングは笑いながらやっていた。全曲を1テイクで録ったんだよね。だから、上手くやろうとはしない、という意識があったんだろうな」

ーーその一発録音の素材をもとに、曽我部さんがミックスしています。彼がミックスしたアルバムを聴いた感想は?

「自由だなと思った。おとぎ話のメンバーよりも曽我部さんのほうがぜんぜん自由なんだなと思って感激したな。ごちゃごちゃと考えずに、これからも音楽をやればいいや、とそこで思えたかも」

ーー『HOKORI』には、高円寺のU.F.O. CLUBというバンドの出自がそれまででいちばんストレートに出たアルバムだという印象です。だから2度目のファーストアルバムのようにも思える。

「それは嬉しい。まさにそうだよ。もう一回ここからはじめます、という感じだった」

ーーちなみに、このアルバムがリリースされた2010年前後からかつて〈東京インディー〉と言われた若いバンドのシーンが活発になります。シャムキャッツやcero、ミツメといったバンドがデビューして、その周辺の音楽家たちも注目を集めるようになる。そのなかで、おとぎ話の立ち位置ってどんなものだったんでしょう?

「(そこには)まったく入れないという感じだった。個人的には、なんで入れないのかな?と思っていた。でも、たぶん若いバンドからしたらおとぎ話は怖かったんだろうね。あの人たちは自由にやっていると思われていただろうし、こちらから近づこうとはしなかったしね。いまとなってはすごく声をかけてほしかったなと思うけど(笑)」

ーー(笑)。居心地のいい場所はありました?

「ないな。本当に孤立していたと思う。でも、andymoriと対バンするのは楽しかったよ。音楽的に好きだったし、小山田壮平が考えていることはすごくわかると思った。壮平から言われて嬉しかった言葉があるんだよね。〈有馬くんって誰か憧れの音楽家がいて音楽をやっているんじゃなくて、音楽自体が好きで音楽をやっている人だよね〉と言われたとき、何か救われた気がした」

ーーいい話だ。最後にこのアルバムから1曲を選ぶと?

「これは難しいよね。全体で1曲という感じだから。でもひとつ選ぶのなら、“STAR SHIP”という曲かな。もともとアニメのエンディング曲とか、それに近いものをめざして音楽を作っているんだよね。それがいちばん端的に表れている曲だと思う」

ーー“STAR SHIP”はビートルズの系譜にあたるパワーポップというかチープ・トリックっぽいですよね。でもチープ・トリック自体がUSインディーのルーツにあたるようなバンドなわけで

「チープ・トリック! 当時、めちゃくちゃ聴いていたのを思い出した。そのとおりだね」


[You Tube]
[Download / Streaming]


おとぎ話<OUR VISION>
2022年8月13 日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
開場 16:00/開演 17:00
チケット:全席指定 ¥6,600(税込)

【プレイガイド】
e+
チケットぴあ
ローソンチケット

お問い合わせ: HOT STUFF PROMOTION TEL:03-5720-9999

MORE INTERVIEW