2022年8月13日(土)に開催を控えている、東京・日比谷野外大音楽堂でのおとぎ話のワンマンライヴ〈OUR VISION〉。ライヴに先駆けて6月22日にはニューアルバム『US』がリリースされたが、同公演に向けた本連載では、フロントマンの有馬和樹に、『US』の前に発表してきた11枚のアルバムを1作ずつ語ってもらう。

第6弾となる今回は、2013年の1月にリリースされた6作目『THE WORLD』について。ROSEからの2作を経て、ふたたび古巣のUK.PROJECTからのリリースとなったこのアルバムは、パワフルでアンセミックな楽曲を揃えている。肯定感に溢れた演奏と歌声に、ロックバンド・おとぎ話の地力を再認識せずにはいられない一枚だ。〈青春が終わり、人生がはじまった〉という『THE WORLD』の時代を有馬が振り返った。

Interview & Text by 田中亮太

THE WORLD

ーー『THE WORLD』の2か月前にEPの『サンタEP』がリリースされているじゃないですか。後に『CULTURE CLUB』に再収録される名曲“光の涙”が入っていることもあり、こちらも重要な作品だと思うんですが、バンドとしての位置付けはどうですか?

「『THE WORLD』は前作『BIG BANG ATTACK』とほぼ同時期に制作していたんだけど、この頃、創作意欲がかなり昂っていたんだよね。そこでアルバムのレコーディングが終わるくらいにEPも作ろうという話になった。“Chanmery.”というクリスマスソングがアルバムに入るし、その曲をふまえて12月に焦点を合わせたEPを作ろうと思ったんだ。やっぱりEPがいいバンドはいいバンドだからね」

ーー創作意欲の昂りには、どんな要因があったんですか?

「なんかね、この時期は音楽を作っていること自体が楽しかったというのはあるな。『THE WORLD』で一度、それまでにやりたかったことをすべてやろうと思ったんだよね。縛りを設けずにロックできて、ここで全部やりきった気がする。で、最後にすごくストレートな3拍子のロックンロールを作った。それが“光の涙”」

ーー“光の涙”は震災以降をふまえた鎮魂の歌にも思えて、その点で『BIG BANG ATTACK』のテーマとの連続性も感じました。

「それはあるね。命のことを考えていた時期だった。あと、そのとき付き合っていた人と別れたタイミングでもあって、そこで感じたことも“光の涙”には入っている。人の出会いと別れって有馬が音楽を作るうえでの大きなテーマなんだけど、このときは〈来年の今も笑い合えたなら それはもう奇跡と呼ぼう〉という言葉を歌いたいと思ったんだ。サウンド的にはウィーザーの『Pinkerton』時のB面曲のようなイメージ。特に“Devotion”という曲だね」

ーーアルバムに話を進めると、ROSEからの2作を経て、『THE WORLD』はふたたびUK.PROJECTからのリリースになりました。UK.に一度復帰したのはどうしてだったんでしょう?

「風間(洋隆)くんのこともあって、UK.PROJECTに不義理をしていたから(本記事の『HOKORI』回参照)、仁義を通すという意味も込めて、UK.からもう一枚出そうとは思ったんだよね。そこでそれまでの活動を清算しよう、という意図もあった。だからこのアルバムは本当の区切りだね」

ーーさっき『THE WORLD』と『BIG BANG ATTACK』は同時期に制作していたと言われていましたが、そのうえで曲をアルバムに分けていった基準は?

「『HOKORI』と『BIG BANG ATTACK』では超インディーなバンドとしてのおとぎ話を見せた感じだったけど、『THE WORLD』はそんな超インディーなバンドがポップミュージックをやったという感じ。タイ・セガールとかも超自主の何これ?というガレージのレーベルから出しているアルバムと、ドラッグ・シティから出しているアルバムではちょっと毛色が違うじゃない?」

ーーなるほど。『THE WORLD』には、この時期の有馬くんが強く感化されていたというアーケイド・ファイアからの影響が色濃く表れているように思います。

「それはもうめちゃくちゃそう。アーケイド・ファイアのセカンドアルバム『Neon Bible』を聴き込んでいて、録り方とか音の感じをすごく研究したよ。“NO SOS”は彼らの“Intervention”という曲を参考にしている。あと、ラストの“世界を笑うな”とか、めちゃくちゃ“Wake Up”だよね(笑)」

ーーまさに(笑)。『THE WORLD』では、具体的にどういう音をめざしたんですか?

「湿った感じの音かな。その場の空気が録られたみたいな、そういう音作りを意識していた」

ーー今回は『THE WORLD』というタイトルのとおり、世界と対峙している自分を歌った歌詞が多いように感じました。

「このアルバムを出したあとに牛尾(健太)が失踪するんだけど、バンドとして現実に向き合わざるをえないタイミングだったんだろうね。もどかしさを抱えたままメンバーと喧嘩したり、実生活でも恋人と別れたり、それがわりと同じ時期に起こっていた。その結果、自分を保っていたものがぜんぶ崩れていっちゃって、という時期だったんだよね。だから“OTOGIVANASHI WILL NEVER DIE!!!!!!!!”という〈俺たちは決して死なないぜ〉と言っている曲でも〈おとぎ話の結末はハッピーエンドとは限らない〉と歌っている。つまり、人生は有馬和樹が思っているようにはいかないんだなと気づいたタイミングだった。ぜんぜん上手くいかねーなと思っていたよ。かといって厭世的にはならなくて、そこがおもしろいところでもあった」

ーー有馬くんのそういう心境の変化は、大人になっていったと言い換えることもできると思うんですけど、それは歌詞の内容にも変化を及ぼしました?

「これ以前はわりと光を歌っていたんだけど、この時期から闇についても歌いはじめたと思う。闇がないと光って気付けないものだから、その対比をちゃんと歌おうとしたんだよね。そのうえで、光で闇を切り裂くというような歌詞を書いていたかな」

ーー暗い部分を無視せずに直視するようになったんでしょうね。

「おとぎ話は男の子の青春バンドだったんだけど、ここらへんからやっと自分のドロドロとした部分も当たり前だと思えて、そのあたりも素直に出せるようになってきた」

ーーじゃあ、このアルバムから1曲選んでください。

「やっぱり“世界を笑うな”かな。10分間もある曲で、基本的には周囲に唾を吐いちゃっているし、誰も自分の気持ちをわかってくれないと思いながら作った曲なんだけど、最後には〈必ず夜が明ける〉ということを言いたかったんだよね。だって、どう考えたって夜明けとかめちゃくちゃ綺麗だから。これは夜の一部始終を歌っているような曲だね。久しぶりに空を見上げたら綺麗だった、みたいなことを歌いたかったんだ」

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おとぎ話<OUR VISION>
2022年8月13 日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
開場 16:00/開演 17:00
チケット:全席指定 ¥6,600(税込)

【プレイガイド】
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お問い合わせ: HOT STUFF PROMOTION TEL:03-5720-9999

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