2022年8月13日(土)に開催を控えている、東京・日比谷野外大音楽堂でのおとぎ話のワンマンライヴ〈OUR VISION〉。先日、ライヴに先駆けて6月22日(水)にニューアルバム『US』をリリースすることも発表されたが、同公演に向けた本連載では、フロントマンの有馬和樹に、バンドが『US』以前に出してきた11枚のアルバムを1作ずつ語ってもらう。

第3弾となる今回は、2010年1月にリリースされたサードアルバム『FAIRYTALE』について。『SALE!』『理由なき反抗』というロックンロールの勢いに溢れた前2作と比較して、ウェルメイドで整理されたポップアルバムといった趣の強い同作。ストリングスや鍵盤がフィーチャーされていることもあり、おとぎ話のメロウネスをそれまで以上に感じさせる作品になった。バンドはここでなぜ変化を求めたのだろう。有馬がその制作意図を語った。
Interview & Text by 田中亮太

FAIRYTALE(2010年1月)

ーーセカンドアルバム『理由なき反抗』の制作時、有馬くんは自分たちの状況に戸惑っていましたよね。結果的にあの作品は高く評価されたわけですが、さらなる成功は有馬くんにどういう影響を与えたのでしょう?

「(レーベルの)UK.PROJECTもちゃんとした会社だから、それ以上の成功をバンドに求めたりはするわけで。それで〈おとぎ話、次はここだよね〉とかそういう言葉に引っ張られて、自分でもついほかのバンドと自分たちを比較しちゃったりしていたかな。それで勝手に落ち込んだり。この時期、集客が気になって、ワンマンライヴの当日に声が出なくなるなんてこともあった。だからやっぱりね、これから先の不安しかなかったし、それがいちばん強かったよ。『FAIRYTALE』の冒頭曲の“WHITE SONG”では〈まだ見ぬ君にこの歌が届けばいいな〉と歌っているんだけど、ずっとそういう気持ちだった。前作ではバンドのメンバーに向けてのメッセージとして〈ポジティヴに生きていこう〉とかそういうことを歌ったんだけど、『FAIRYTALE』では歌がもっと内向的な告白になったよね」

ーーそういう有馬くんの不安はほかのメンバーに共有してはいたんですか?

「共有というより、あたるとか揉めるとかそういう表出の仕方にはなっていたかな。でも、精神的にはものすごく疲弊しているんだけど、それと反比例して作る曲はひたすらポップになっていった。それが自分でもすごいと思う」

ーーそれはどうしてなんでしょうね。

「いまとなっては本当に申し訳ないし最低なことだけど、怒りを音楽ではなくメンバーにぶつけていたからだと思う。だからメンバーには本当に言葉にできないくらいに感謝してる。それを音楽にぶつけていたらもっとハードコアな音になっていただろうね。でも音楽だけはポップにしたいと考えていて、そこは裏切らなかったんだよね」

ーーこの『FAIRYTALE』はセルフタイトルとも言えるアルバムですよね。このタイトルはいつ決まったんでしょう?

「作っている途中に〈FAIRYTALE〉としか言えないアルバムになっていると思った気がする。すごくポップになっていったから、もはやエモくないというか。童話を読んでいるような感じで歌えるようになっていったんだよね」

ーーなるほど。今回はスピッツのディレクターとして知られる竹内修さんを共同プロデューサーとして起用しています。はじめてプロデューサーを迎えた理由は?

「一個階段を上った、成長した姿をリスナーに見せたかったんだと思う。竹内さんにお願いしたのは、単純にスピッツが好きだったから。竹内さんはスピッツのディレクターであり、トリビュートアルバムの『一期一会 a Teenage Symphony compilation vol.2 Sweets for my SPITZ』を作った人でもあって。僕はあのアルバムで羅針盤やぱぱぼっくすを知り、大阪のうたものに憧れるようになったんだよね。そういう自分に深く影響を与える作品に携わっていた人が〈おとぎ話を好き〉と言ってくれたのは嬉しくかったし、一緒に仕事をしてみたいと思った。実際に作業してみて、単純に自分よりも音楽を好きな人なんだ、ということがまず嬉しかったね。すごくいろいろなことを教えてもらって、めちゃくちゃ感謝しているよ。いまでもその経験が活かされているし」

ーーどんなことを教わったんですか?

「コーラスワークの作り方とかは竹内さんに学んだことが大きいな。彼はビーチ・ボーイズがすごく好きだから。自分もここから数年後にビーチ・ボーイズを研究するようになるんだよね。ビーチ・ボーイズのフィーリングはおとぎ話の新作の『US』にも落とし込まれていると思う」

ーー『FAIRYTALE』は、音楽的には幅広い作品になっていますよね。“コトバとコトバ ”や“I LIKE SPORTS”はブリットポップっぽかったり、“ロードムービー”はオルタナカントリーの雰囲気があったり。“E.T.M.”にいたってはJ-Rockを意識したようにも思える。

「そうだね。実際、ブリットポップが終わるくらいの97〜98年のUKロックの感じは意識していたかな。2曲目の“ファンファーレ”なんてほとんどティーンエイジ・ファンクラブ(笑)。アルバム全体で想像していたのは、ティーンエイジ・ファンクラブとピクシーズとが融合しているようなサウンドだったかな」

ーー作り上げてみての達成感はいかがでした?

「達成感はそれまででいちばんあったよ。これは絶対に上手くいくと思ったもん」

ーーではリリースしてみての反応は?

「予想通りにはいかなかった、というのが正直なところだったかな。前2作よりも評価されていない印象だった。だから、これでいろいろなことが終わっていくのかなとも思って。だけど、ピクシーズとかアメリカのオルタナティヴな音楽がそれまで以上に好きになっていたから、不思議と不安もなかったんだよね。日本では特にここらへんからPitchforkの影響が強くなってきて、アメリカからどんどんおもしろいインディーのバンドが出てきたじゃん? ガールズとか超聴いてて大好きだったな。自分たちもそうしたバンドみたいに自分のペースで自由にやりたいという気持ちになっていったんだよね」

ーーでは、最後に『FAIRYTALE』から、この時期のバンドを象徴するような1曲を挙げると?

「ちょっと渋いセレクトになるけど“Superstar”かな。『FAIRYTALE』は作風としてむちゃくちゃ切ないアルバムになったし、もう有馬の陰キャぶりが爆発している作品だと思うんだけど、特に“Superstar”はそれが顕著に表れていると思う。この曲、実際はまったくSuperstarでもなんでもないのに、僕はSuperstarになったと自分で言っていて、切ないんだよね。歌詞もいい物語を描けているし、これはよく出来た曲だと思う。すごくおとぎ話っぽい曲なんじゃないかな」
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おとぎ話<OUR VISION>
2022年8月13 日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
開場 16:00/開演 17:00
チケット:全席指定 ¥6,600(税込)

【プレイガイド】
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お問い合わせ: HOT STUFF PROMOTION TEL:03-5720-9999

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