2022年8月13日(土)に開催を控えている、東京・日比谷野外大音楽堂でのおとぎ話のワンマンライヴ〈OUR VISION〉。ライヴに先駆けて6月22日にはニューアルバム『US』がリリースされたが、同公演に向けた本連載では、フロントマンの有馬和樹に、『US』の前に発表してきた11枚のアルバムを1作ずつ語ってもらう。

第11弾にしてついに最終回となる今回は、2021年1月にリリースされた11作目『BESIDE』について。結成20周年記念アルバムと銘打たれたこの作品は、いくつかの新曲と未発表曲、“SMILE”など過去の楽曲をリアレンジしたものをまとめた編集盤。ダウナーでメランコリックな趣だった前作『REALIZE』とはうってかわって、バンドのいきいきとした演奏が魅力のブライトでジョイなロックンロールアルバムになっている。結成から20年、デビューから15年を経たバンドが、ここで辿り着いていたの場所とは? 有馬が語った〈日本のロックンロール最大の謎!〉、すなわちおとぎ話という4人組。

Interview & Text by 田中亮太

BESIDE

ーー『BESIDE』は結成20周年記念盤として発表されました。純粋な新作ではなく、編集盤的な作品にした理由は?

「これは、おとぎ話=ロックンロールファンクラブと伝えるためのアルバムだね。音楽をやっているなかで、いつかベスト盤を作りたいとは思っているけれど、ベスト盤を作っていいのはちゃんと売れているバンドだと思うし、僕らは別に売れてない。だから偽物ベストを作ろうと思って作ったんだよね。あとB面集って夢があるじゃない? オリジナルアルバムよりもいいB面集とか7インチ音源を集めた編集盤って、世の中にたくさんあるじゃん。それを自作自演でやるというのが今回のコンセプトだった。『Nuggets』というサイケやガレージの知られざる名曲を集めた60年代のコンピがあるけれど、これは自分たちだけの『Nuggets』を作った感じだね」

ーーその説明はわかりやすい。ニューアレンジした既発曲以外は出どころ不明なものも多いんですが、そもそもどういう曲を集めたものなんですか?

「半数以上はすでに作っていた曲だね。”LOVE CRY”とかはセカンドアルバムの頃、すでにあった。あとは舞台で使ったものや映画の挿入曲とか。お蔵入りにしていたものもあるな。新しく作ったのは、“君にあげるよ”、“大脱走”、“明日に向かって撃て”、“BE STRONG”の4曲。この4つはアルバムとして流れを出すために作った。ここにこういう曲が入ってないとアルバムとして成立しないよね、ということを考えて逆算したうえでね」

ーー有馬和樹の頭のなかに鳴っている音をバンドで再現した『REALIZE』とは、まったく異なった制作のやり方だったんですね。

「コロナ禍でもあったし、みんなに〈やっぱりおとぎ話って楽しいバンドだよね〉と思ってもらいたかったんだよね。『REALIZE』で困惑させてごめんねという感じ(笑)」

ーー『REALIZE』と新作『US』の間に『BESIDE』が挟まっているのがおもしろいなと。

「もう時空を歪ませたよね(笑)。『BESIDE』はそれまでの作品でいちばんギャグだね。めちゃくちゃ好きだけど。このアルバムのときのモードは、楽しければいいじゃんという感じかな。ジャケットからもそういう雰囲気が出ているしね。廃墟に行ってカッコつけて撮ろうよというアイデアで、そういうノリで撮った。ライヴも少なくなった時期で、メンバーの誰も疲れていなかったし、本当に楽しかったよ。まぁ有馬だけは疲れていた。なぜなら、ここらへんから自分の離婚の話し合いがはじまったから(笑)。そういう状況なのに、これだけポップなアルバムを作った有馬を褒めてくれって感じ」

ーー(笑)。再録音した楽曲のニューアレンジは、どういうふうに決めていったんですか?

「“NEON BOYS (FUZZ)”は、もともとオリジナルもこういうサウンドにしたかったんだよね。“少年(FEEDBACK BOYS)”に関しては、奥田民生が“イージュー☆ライダー”をいきなりダウナーな感じで演奏したりしていたじゃん? ニール・ヤングがアコースティックな曲をロックにやったりとか、ああいうのをやりたかった。基本的には、こういうアレンジもありえたよね、って感じだね。制作当時は上手く演奏できなかったけど、バンドを長く続けてきて、いろいろなことができるようになったから、いまの自分たちなりに演奏してみましたという」

ーー特にニューアレンジを気に入っている楽曲は?

「ライヴではできないけど、このアルバムで唯一『US』に繋がるような演奏をしている“SMILE(AGAIN)”かな。この曲は完全に『US』の世界を体現している」

ーー僕も“SMILE(AGAIN)”はオリジナル版よりも好きです。今回のアレンジはレッド・ホット・チリ・ペッパーズの”Universally Speaking”っぽいなと思いました。

「わかる(笑)。実際にかなり意識した。それと昔のソウルかな。モータウンビートでやろうぜと言っていたね。牛尾(健太)はすぐ弾きまくっちゃうから、彼にはなるべく弾くのを控えてもらった(笑)」

ーーこういうフィルインの少ないドラミングは前越(啓輔)くん的にはどうなんですか?

「単純にワンループで済むから、前越くん的には全曲これがいいくらいの感じだと思うよ(笑)。彼はラクしたい人だからね」

ーーそうなんですね。ここ数作の前越くんのドラムは、故・青木達之さんのドラムを彷彿とさせる淡々とした感じがいいですよね。

「そうだね。プライマル・スクリームの“Rocks”のドラムもワンループで出来ているじゃない? ああいうのがいいなと思うようになったんだよね。それを最初にやったのは『眺め』の“HEAD”。あれがはじめてワンループで作った曲だね」

ーー『眺め』くらいから有馬くんの歌声も変わったように思うんです。

「変わったよね。自分としては〈歌ってこれだよね、俺の声ってこうだよね〉という感覚を完全に掴んだという感じ。昔は、聴いている人に伝えるためには感情を歌に乗せなきゃいけないと思っていたんだけど、別にしないでいいんだとやっと気づいたんだよね。だから歌うときに、いっさい感情を乗せなくなった」

ーー歌がどんどんピュアで澄み切ったものになっている印象です。

「だよね。昔だったら“君にあげるよ”なんて、めちゃくちゃ君にあげるつもりで歌っていたと思う(笑)」

ーー『BESIDE』から1曲選ぶとすれば?

「“君にあげるよ”か“BE STRONG”で悩むところだけれど、まぁ“君にあげるよ”に軍配が上がるかな。神保(賢志)くんが作ったわけのわからないアニメーションのMVも含めていいよね。あのMVは、完全に曲の世界観を壊してくれてありがとうという感じ(笑)」

ーー“君にあげるよ”は有馬くんからメンバーに向けた曲にも聴こえるから、結成20周年記念というアルバムの顔になっているんじゃないかなと思います。さて、ファーストアルバム『SALE!』からの11作を通して、バンドのデビュー以降の15年を話してもらいましたが、一言で言うとどういう15年間でした?

「ちゃんとした15年って感じかな。あっという間だったというより、めちゃくちゃ15年という感じ(笑)。ほかのミュージシャンと違って一回もレールに乗れていないから、一曲一曲を作りながら時間を積み重ねていった。流して作ったものは1曲もないね」

ーー15年間、メンバーが抜けたり変わったりしなかったことも、間違いなくおとぎ話の魅力ですよね。

「それはホントにすごいよね」

ーー4人でい続けるためのコツは?

「いやー、もうある時期から、そういうのもわからなくなったよ。しょせん他人だけど、しょせん友達っていう感じなんだよね。一人が無理にがんばったからって何も変わらないし、そもそも友達同士で作ったんだからずっと友達でいようと思っている。それしかないかな。すべてのバンドにおいて誰かが脱退する原因って、誰かの期待に応えられないからでしょ? そういう話はもう僕たちにはないな」

ーー制作中に口論することともはないんですか?

「いまはないね。ついになくなったという感じ。ただ、4人が同じノリ、同じリズムでやるにはどうしたらいいかを、ずっとみんなで模索している。他人に期待しても意味がないとわかったし、仮にメンバーが自分の予想外のことをしていても、なんであんなふうにしてんの(笑)と笑うだけ。昔だったら、ライヴのときの服装を見て〈なんであんな格好でライヴするの? もっと格好よくしなよ〉とか言っていたけど、もう何にも言わなくなった。おとぎ話は、そういう境地にいるんだよね。そうなれて、むっちゃよかったと思うよ」


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おとぎ話<OUR VISION>
2022年8月13 日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
開場 16:00/開演 17:00
チケット:全席指定 ¥6,600(税込)

【プレイガイド】
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お問い合わせ: HOT STUFF PROMOTION TEL:03-5720-9999

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