2022年8月13日(土)に開催を控えている、東京・日比谷野外大音楽堂でのおとぎ話のワンマンライヴ〈OUR VISION〉。ライヴに先駆けて6月22日にはニューアルバム『US』がリリースされたが、同公演に向けた本連載では、フロントマンの有馬和樹に、『US』の前に発表してきた11枚のアルバムを1作ずつ語ってもらう。
第2弾となる今回は、2008年にリリースされたセカンドアルバム『理由なき反抗』について。先日、アナログ盤がリリースされた同作は、ファンからの人気もひときわ高いアルバムだ。そんな代表作のひとつを、有馬はどのように位置付けているのだろう。意外にも、彼はビターな記憶とともにこの作品を振り返った。
Interview & Text by 田中亮太
『理由なき反抗』(2008年10月)
ーーファーストアルバムの『SALE!』から『理由なき反抗』に向かうまでのバンドはどんな状態でしたか?
「『SALE!』 が好評だったおかげで、わりと大きなイベント……それまでは縁のなかったJ-Rockっぽいものにも誘われるようになったんだよね。でも自分たちとしては地に足がついていない感じで、バンド内もギスギスしはじめていた」
ーー高円寺のU.F.O.CLUBみたいな以前からの根城は、変わらずあったんでしょうか?
「それはあったよ。その頃は、年に1回くらいU.F.O.CLUBでやらせてもらっていて、それがなかったからキツかったかも。あそこが帰ってこれる場所だという感じがした。いろいろなイベントには出つつも友達が増えたわけではなく、仲良かったのは、近所に住んでいた毛皮のマリーズの志磨(遼平)ちゃんと前野(健太)くんくらい。あとはなかなか居場所を見つけられなくて、〈大きい会場でやってください〉と言われて、行って演奏してみるものの、自分がなんでここにいるのかわからない、みたいな気持ちでいることが多かった」
ーーその場にいることを楽しめなかった?
「楽しいんだけど苦しいって感じかな。相反する気持ちを抱えていたんだよね。なんで認められないんだろう、とかそういうことばっかりを考えていた。でも客観的に見ると認められているんだよね。だから複雑だったし、超つらかったよ(笑)。でも、曲だけは出来ていた。そんな状況なのにさらっと“SMILE”を書いたりしていて」
ーー“SMILE”はアルバムの前に発表された『ハローグッバイep.』にも収録されていて、リードソング的な位置付けの曲だと思うんですが、あの曲が出来たことには達成感があったんでしょうか?
「いや、別に達成感はなかったよ。ああいうのはすぐ作れるから。でも、なぜかびっくりするくらいの反響があったんだよね。いまだに“SMILE”はライヴの肝にもなっているしね。やらないとみんなが悲しいっていうか」
ーー“SMILE”のどこが多くのリスナーを惹きつけたんだと思います?
「それがいまだにわかんないんだよね。わかりやすいラヴソングだからじゃないかな。踊ってばかりの国とか年下のバンドと対バンすると、みんな〈“SMILE”をやってほしい〉と言ってくるんだよね。それを聞くと、みんな案外いいやつなんだな、優しい人が多いんだな、と思う(笑)」
ーー先日、このアルバムのアナログ盤がリリースされて、渋谷のクアトロで記念ライヴがあったわけですけど、あらためてアルバムの曲を演奏してみて、なにか発見はありました?
「本当にいい曲ばっかりだなと思ったし、ちょっと感動したよ。で、いまがいちばん演奏するのも楽しかった。あの日、バンドをやめなくてよかったなと思ったり。リリース当時は演奏するのがつらくてしかたがなかった。さらっとつくった“SMILE”をみんなが誉めてくれたのは嬉しかったけど、自分の心境と周囲の状況の差がすごすぎて、なんかね……めちゃくちゃ死にたかった(笑)。だから、『理由なき反抗』というタイトルが出てきたんだろうけど、反発心をメンバーにもぶつけていたから、よくなかったよね。本当にごめんなさい」
ーーいま、〈いい曲ばっかり〉と言われましたけど、ここで有馬くんの言う〈いい曲〉とはどういうニュアンスですか?
「普通に聴けるって感じかな。俺、すげーんだぜって、こんなにかっこいい曲やってんぜ、というスタンスのミュージシャンもいるけど、そういうのは自分はやりたいことじゃないんだよね。普通にやっていて普通に曲がいい、というのがいちばんかっこいいと思っている。ウィルコを観に行ったときもそう思ったし。このアルバムの曲は普通の〈いい曲〉だなと思った」
ーー前作の『SALE!』と今作を比較すると、プロダクション面で整理が進んだように感じられます。音作りに際して、有馬くんが考えていたことは?
「ファーストアルバムには、それまで聴いてきた音楽をすべて詰め込もうとしたんだけど、セカンドはニール・ヤングやペイヴメントだったり、裏ジャケットにオマージュを入れたイールズだったり、イメージを絞れていたんだよね。あと、この頃にいちばん聴いていたのはシンズ。彼らのセカンドアルバム『Chutes Too Narrow』には、ロックバンドのひとつの理想形を感じて、すごく参考になった。だからやりたいことがはっきりしていたんだよね」
ーーなるほど、いま名前の出ていたバンドの共通点を探ると、オルタナでフォーキーという視点がひとつあったんでしょうね。
「そうだね。フォーキーな感じはすごく出ていると思う。それがテーマだった。『理由なき反抗』は、名盤だと言ってくれる人が多いな。若い子たちと話をしても、これをいちばん聴いていたって人が多い。おとぎ話自体が、このアルバムを中学生くらいのときに聴いていた子らと対バンすることが増えてきて、それもやっと愛せるようになった理由かな。ちゃんと届いていたんだなと思えた。当時はその実感がなかったからね」
ーー歌詞に目を向けると、バンド自体のことを歌ったものが増えたように感じたんです。〈WE ARE THE BAND OF THE NEON BOYS〉と歌う“ネオンBOYS”しかり、ファーストアルバム以降のバンドの葛藤が滲み出ているかのような“FUN CLUB”しかり。
「それは本当にそのとおりで、ファーストは自分の世界を歌えばよかったんだけど、セカンドは完全にメンバーに向けて歌っている感じだった。自分とほかのメンバーとに温度差があって、だからメンバーにハッパをかけるような歌詞になったし、そういう面でも思い出すのが辛かったのかも。でも、聴いている人は自分に言ってくれているように感じたんだろうね」
ーー恋についての歌詞もあるけれど、それ以上に友情、仲間のことを歌っている印象です。
「だから〈男の子の青春〉という感じのアルバムだよね」
ーーとはいえ、このアルバムから1曲選ぶとすれば、てらいのないラヴソングの“SMILE”?
「やっぱり“SMILE”になっちゃうかな。ソロも含めて、たぶんライヴでやった回数がいちばん多い曲だし。もし2番を選ぶなら“FUN CLUB”かな。自分のことをはじめて〈小悪魔〉と称した曲なんだよね。そういう点で、有馬のキャラクターを形づけた1曲でもある。って何言ってんだ」
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おとぎ話<OUR VISION>
2022年8月13 日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
開場 16:00/開演 17:00
チケット:全席指定 ¥6,600(税込)
お問い合わせ: HOT STUFF PROMOTION TEL:03-5720-9999